●アルファーダイヤモンド工業(ダイヤモンドツール製造)
品質・納期・コスト・技術にこだわり無借金経営を実践
創業以来、光学レンズ用のダイヤモンドツールに特化し、品質至上主義を貫いてきたアルファーダイヤモンド工業。松井久男会長の指揮によって、売り上げの拡大はもちろん、確かな利益体質が形作られてきた。無借金経営を誇る同社の核心に迫った。
1983年9月、松井久男会長が創業したアルファーダイヤモンド工業は、光学レンズの研削・研磨など超精密加工に使われるダイヤモンドツールに特化し、大手カメラメーカーなどの生産現場に製品を供給している。
当時、他のダイヤモンドツールのメーカーで働いていた松井会長が独立・創業を志したのには理由があった。松井会長が当時をこう述懐する。「勤めていた会社は親会社が商社で、製造現場との考え方の違いにフラストレーションを感じていました。われわれは商社が間に入るのではなく直販でやりたかった。その方がお客の声をダイレクトに聞くことができますから。もちろん利幅も大きい」
仕事をとる自信はあった。キヤノンやニコンといった大手カメラメーカーの担当者などとのつながりはあったし、当時はまだ高度成長時代。技術的にしっかりとしたものをつくれば買ってもらえるとの確信のもと、独立へと突き進む。
とはいえ、先立つものは生産設備だ。
「実績がないものだから、当時は現金でしか売ってもらえなかった」(松井会長)ため、なんとか現金をかき集め機械を購入松井久男会長アルファーダイヤモンド工業株式会社し、ほぼ1人でスタートした。
腕には自信がある。周囲のやっかみのなか、懸命に営業活動に取り組み、順調に売り上げを拡大していく。
松井久男会長
アルファーダイヤモンド工業株式会社
創業 1983年9月
所在地 東京都足立区新田3丁目21-4
売上高 約7億円
従業員数 50名
会計システム FX4クラウド
掲げた社是は「品質至上主義」。ナノレベルの精密加工を可能にする工具には寸分の狂いも許されない。そうしたなか、松井会長がとくに心掛けたのが「スピード」と「小回り」。大手メーカーの技術革新をすばやく察知し、大量生産だけではなく、顧客の要望に応じた特注仕様にも柔軟に対応。また、作業スピードを上げ、納期は確実に守ることを徹底した。商社を通さず直接顧客の声を聞き、製品を納入できる強みを生かした事業展開を進めたのである。
そうこうするうちに、80~90年代にかけてデジタルカメラの需要が右肩上がりとなり、同社の売り上げもジャンプアップしていく。すると、管内にあった工場では手狭になり、97年には宮城県南三陸町に工場を移転。
「これも価格競争力という面でプラスに働きました。また、人材の確保という面でも結果的に良かったと思います。いま、関東近辺で人材を確保するのは大変ですが、当社では現地の高校とのつながりもあり、毎年安定的に新卒を採用することができています」(松井会長)
鈴木彰一税理士
さらに、2000年に入ると中国とタイへも進出。 取引先を世界へと広げていく。日本のメーカーの海外工場はもちろん、海外メーカーからの引き合いも獲得。ちなみに現在、売り上げの3割が海外への販売だという。
同社の社是が「品質至上主義」であることは先に述べたが、これをブレークダウンしたスローガンが「品質はメーカーの誇り」「納期はメーカーの責任」「コストはメーカーの義務」「技術はメーカーの生命」の四つ。これらのスローガンを徹底することで、同社の強みとして蓄積され、顧客の信頼を獲得することにつながった。
とくに「品質」は、顧客との信頼関係のベースであり、品質の追求なくして「納期」も「コスト」も意味をなさない。
同社は、製造現場に入る前には風圧で塵埃(じんあい)を除去する装置を早くから導入。精密加工ツールに異物の混入はご法度である。ダイヤモンドツールの命ともいえる砥石(といし)の開発には保有する最新の研削装置を使用し、加工評価を行いながら進める。「開発と評価・検証を並行して進めることで、〝品質の高さ”と開発スピード〟を両立させています」と松井会長。
また、高性能な検査機器を導入して砥石の品質チェックを徹底。単品ごとに検査を実施する周到さだ。
①タイ工場
②仙台第一工場
③ペレット加工の様子
④ロータリー研削盤
⑤研削加工機イメージ
⑥製品群
アルファーダイヤモンド工業のもう一つの特徴は、限界利益率と自己資本比率の高さである。限界利益率は70%、無借金経営なので自己資本比率は100%。メーカーの宿命である設備投資もすべてキャッシュで行われるというからすごい。
とはいえ、ここ何十年かの事業環境は決して良いとはいえない。 携帯電話とくにスマートフォンの普及でデジタルカメラの需要が大きく落ち込んだからだ。実際、同社の最盛期の年商は10億円超。それが現在は7億円へと減少している。 にもかかわらず、高い利益率を維持しているのは、計数管理を怠らず、売上高と限界利益、経費のバランスを常に意識しながら経営を行ってきたからだ。
こうした同社の経営を支えているのが税理士法人ブレイスである。そもそもは、鈴木彰一税理士がTKC全国会に入会して、関与していたアルファーダイヤモンド工業を自計化。さらに鈴木税理士が2016年、税理士法人ブレイスに入所し、『FX4クラウド』を導入。巡回監査、月次決算体制を整えていく。
鈴木税理士は言う。
「限界利益率70%は製造業としてはかなり高い方だと思います。要因としては、製品の付加価値が高いので、売値に対して原価がかなり低く抑えられていることが一つ。それと販管費も大きいのは営業マンの人件費くらいだし、無借金経営なので営業利益と経常利益はほぼ一緒。結果として通常、ボトムライン(当期利益)で数千万円残ります」
この当期利益が内部留保として積み上がり、現在、現預金の額は年商を大きく上回っているという。
左から2人目が税理士法人ブレイスの野口大樹代表社員・税理士
右端が監査担当の廣瀬心也氏
巡回監査を担当する廣瀬心也氏はこう言う。
「製品別および工場別の重層的な損益管理を行っており、製品別では5種類に分け、どの製品群がどれだけの利益を出しているのか詳細に管理しています」
また、海外と国内の売上高もコード番号をつけて管理。帳表を見れば一目で分かるようになっている。
松井会長は言う。
「毎月、ブレイスさんに来ていただき、試算表を見ながら説明を受けるのですが、気になるのはやはり売り上げと経費のバランスです」
既述した通り、同社は最盛期に比べて売上高が3億円減少している。デジカメニーズが大幅に減り、大量生産ではない小ロットの特注品への対応が求められている。
鈴木税理士が言う。
「小ロットの製品をつくるには、大量生産の製品よりも手間も時間もかかります。 そのため、年商は落ちても、工場の忙しさは変わらないといった状況がある。今後は、工場のさらなる自動化が課題です」
さて、同社はここまで利益体質を構築してきてはいるものの、縮小均衡ばかりでは企業としての面白みに欠ける。
松井会長は言う。
「コンクリートなどの床や土間を磨いて平らにするダイヤモンドポリッシャーで建築業界に参入し、将来的に柱の製品に育てていきたいと考えています」
この製品は、すでに開発されていたものだが、研究を重ねることでよりすぐれた性能を付加。
再度、建築業界に売り込んでいきたいというのが松井会長の狙い。これによって売り上げを上昇軌道に乗せ、再び年商10億円の大台を目指すのだという。